リガ・ノロエステ ~もうひとつのウィンターリーグ(第6回)
昨年10月から今年2月にかけて、当ブログにて「イスラエル野球紀行」という記事が連載されました。
(全ての記事についてはこちら→http://kozo.boxerblog.com/kozo/cat2140867/index.html)
イスラエルで初めて行われたプロ野球リーグを訪れ、現地の状況を『野球小僧』10月号の「ワールドベースボールレポート」に寄稿頂いた“放浪野球観戦”の第一人者・石原豊一氏が、そのときの旅の成りゆきをさらに詳しく綴った内容に多くの反響を頂きました。
残念なことに、今年のイスラエルリーグは資金難のため、開催が見送りとなったそうですが、世界のありとあらゆる野球を求めて時間を作っては“放浪野球観戦”を続ける石原氏。今度は、昨年末にメキシコのウインターリーグに行ってきた際のレポートを寄稿して頂けることになりました。
本日から、主に毎週金曜日の更新にて連載いたします(諸事情により更新日を変更することがありますのでご了承下さい)。
日本のほぼ反対側で行われている中南米の野球。その中でも古い歴史を誇るメキシコの野球はメジャーリーグやWBCなどで多少は知られるようになりましたが、それでもなかなか得られるものではありません。
石原氏が自ら体感してきた貴重な生の「メキシコ野球」の雰囲気を、ぜひ一緒に味わって下さい。
viaje03-2 2007年12月29日/サンチアゴ・タバケロス対テピック・ディアブロス
(プレーオフ3回戦、サンチアゴ・レボルシオン球場)
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アナウンスの2人
試合はもう始まっている。
私はネット裏の最上段(といってもスタンドは10段もないのだが)、スコアラーと場内アナウンサーの後ろの席に陣取った。先日のテピックでの試合でアウェーチームのサンチアゴのジャージを着た2人組に出会ったのだが、この両氏は、今、私の前でスコアをつけ、スタメンを発表している。この2人に促されてスタンドの階段を上ってここの席をあてがわれたのだ。
彼らは私の前で、場内のエンターテイメントを取り仕切るのだが、これがまたいいかげんで、仕事をしながら、後ろにいる私の方をむいては、「おう、寒いだろ、コーヒー飲むか?」などと言いながら、アナウンスをしながら魔法瓶のお湯をカップにそそいだりしている。そのうち、スコアラー氏は、プレーを見逃し、アナウンサー氏に問い合わせている始末。
彼らは場内で売られているくじの当選発表もしなければならず、試合中は忙しいはずなのだが…。その仕事ぶりはどことなくのんびりしている。
くじと言えば、このリーグでは試合中、スタンドでくじを売っている。
1枚20ペソ(200円)で、一定枚数売れると、バックネット裏でダーツが行われ、当たりの数字が決定する。当選者にはチームのジャンパーやジャージなどが当たるのだ。中には現金が当たる回もあり、この時のダーツには試合そっちのけで注目が集まることも。
そもそも、野球のゲーム中にくじなどする必要もないのだが、メキシコのマイナーリーグでは、このくじは頻繁に行われる。スタジアムに足を運ぶ理由がプレーだけでないのは、スタンドでのパフォーマンス的な応援に熱狂するファンの多い日本と事情は変わらない。洋の東西を問わずスタジアムに集う人々は、野球というゲームを通してある種の祭りの空間を創出しているのだ。
自分をからかう「エル・ニーニャ」の歌声
試合は、序盤の1、2回は静かに始まったが、3回になって動いた。
連敗してサンチアゴに乗り込んできたディアブロスが2番アコスタのフォアボールを足がかりに、連打で先制した。しかし、その裏、タバケロスは先頭のトルヒージョの内野安打から2点を取って逆転する。
それにしても、この内野安打はお粗末だった。ディアブロスのサード、ウィルソンの動きが悪すぎる。このあたりのプレーはやはり「マイナー」といった感じだ。
前日に「1軍」の「リガ・パシフィコ」を目にしただけに、余計にその差が際立って見えた。
その後、試合中に私がスタンドをうろついていると、どこからともなく「エル・ニーニャ」の歌声が聞こえてきた。どうもこの歌は私に向かって歌われているような…。
実は先日、テピックでもこの歌を聞いたのだ。スタンドを見上げれば、案の上、歌っている連中を仕切っているのは同じオヤジだった。3日前と同じ「SANTIAGO」と書かれたホームチームと同じジャージを身につけている。
はじめ何を言っているのかわからなかったが、近くの人に聞いてみると、私を「女の子」とからかっているらしい。どう見たって坊主に近い短髪の私が「エル・ニーニャ」に見えるわけないのだが、この片田舎にふらりとやってきた異邦人をからかっているのだろう。
とは言え、別に東洋人に別段敵意があるわけではなく、私の気を引き、場内を盛り上げるためのからかいのようだった。
私が足を運ぶと、その男はうれしそうに握手を求めてきた。
盛り上がり始めるスタンド
スタンドは万事この調子で、野球そのものよりスタジアムに集う人々のお祭り気分を観衆は楽しんでいるようだった。
確かに片田舎の町に娯楽それほど多いとは思えない。1日の労働を終えた後の憩いの場を今、目の前でプレーしている選手たちが提供しているのだ。このお祭りが少しでも長く続くためには是非とも地元チームには勝ってもらわねばならない。
さしたる大都市でもないこの山深い州で、年を越してこの祭りを続けることができるのはわずか2つだけ。地元チームが敗退すれば、人々は夜集ってビールを飲んでバカ騒ぎする場所を失ってしまうことになる。
それでも、ゲームの押さえどころはしっかり押さえているようで、4回裏、ホームチームの4番、指名打者のペーニャの打球が左中間フェンスを越えてゆくと、場内は湧き立った。ベースを1周するペーニャに観衆は拍手を送り、そして踊りだす。
選手にとってもこのプレーオフの戦いは、何としても負けられない真剣勝負だ。
敗退はシーズンの終わりを示し、そこで選手たちは即失業となる。勝ちぬけることができなかったチームの選手は、翌日にはホテルを引き払い、田舎に帰ることになる。
その後は、2月半ばに始まるスプリングトレーニングの召集がかかるまでひたすら待つことになる。
キャンプの招待状が来ないとそれまで。野球選手だった若者は、新たな仕事を探さねばならない。
疑惑のファール…? に場内騒然
6回表、ノーアウトランナー一塁からディアブロス5番・ロペスがレフトに大飛球を放った。同点ホームランかと思われたが、スタンドからはフェンスを越えたボールのその行方を追うことはできない。照明が暗すぎるのだ。
果たして、審判の判定は…ファールである!
このリーグの審判は3人制で外野に線審はいない。打球の行方が一番よく見える一塁ベンチのディアブロスナインが納得がいかず飛び出してきた。一堂が審判団を取り囲む。
その中で、ナインの1人が暴言を吐いたらしい。退場だ!
しかし、この球場にはロッカールームなどという贅沢なものはない。ベンチからそのまま数段の石段が続き、その上の天井の低い小便くさいスペースに選手達の荷物置場があるだけだ。まさかここに試合終了まで閉じこもらねばならないというわけではないだろうが、退場を宣告されたからには、その選手はとにかくベンチのかげに引っ込まねばならない。
この騒動に、スタンドのボルテージはさらに盛り上がる。
だが、打者のロペスは仲間の体を張った抗議にも関わらず、あわやゲッツーのセカンドゴロに倒れた。なんとか一塁には生き残ったものの、盗塁を試みて失敗。ディアブロスはこの回も無得点に終わった。
ディアブロスはこの後、リリーフ陣が崩れ、7、8回に3失点。最終回に1点を返したが、時すでに遅く3敗目。
これであとがなくなった。
<続く>
■石原豊一(いしはら・とよかず)
1970年生まれ、大阪府出身。圧倒的な行動力で、これまでアジア、アメリカ、中南米、ヨーロッパなどを渡り歩く「流離いの野球好き」。国内はもちろんのこと、すでに世界各国200を超える球場で野球を観戦してきた。イスラエル野球リーグが開幕したときも、早速現地へひとっ飛びしたほどの行動派。
※石原豊一氏による過去のレポートはこちら
●イスラエル野球紀行
→http://kozo.boxerblog.com/kozo/cat2140867/index.html
●北信越BCリーグ開幕レポート
→http://kozo.boxerblog.com/kozo/2007/05/post_4ba1.html


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