リガ・ノロエステ ~もうひとつのウィンターリーグ(第5回)
昨年10月から今年2月にかけて、当ブログにて「イスラエル野球紀行」という記事が連載されました。
(全ての記事についてはこちら→http://kozo.boxerblog.com/kozo/cat2140867/index.html)
イスラエルで初めて行われたプロ野球リーグを訪れ、現地の状況を『野球小僧』10月号の「ワールドベースボールレポート」に寄稿頂いた“放浪野球観戦”の第一人者・石原豊一氏が、そのときの旅の成りゆきをさらに詳しく綴った内容に多くの反響を頂きました。
残念なことに、今年のイスラエルリーグは資金難のため、開催が見送りとなったそうですが、世界のありとあらゆる野球を求めて時間を作っては“放浪野球観戦”を続ける石原氏。今度は、昨年末にメキシコのウインターリーグに行ってきた際のレポートを寄稿して頂けることになりました。
本日から、主に毎週金曜日の更新にて連載いたします(諸事情により更新日を変更することがありますのでご了承下さい)。
日本のほぼ反対側で行われている中南米の野球。その中でも古い歴史を誇るメキシコの野球はメジャーリーグやWBCなどで多少は知られるようになりましたが、それでもなかなか得られるものではありません。
石原氏が自ら体感してきた貴重な生の「メキシコ野球」の雰囲気を、ぜひ一緒に味わって下さい。
viaje03 2007年12月29日/サンチアゴ・タバケロス対テピック・ディアブロス
(プレーオフ3回戦、サンチアゴ・レボルシオン球場)
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サンチアゴ・イスクイントラへ
7回戦制のプレーオフは2連戦の後、1日休日が入る。それはもったいないと、テピックからシアノア州のクリアカンに足を伸ばし、「1軍」の「リガ・パシフィコ」を観戦、そのまま夜行バスでテピックに戻ってきた。
テピックに戻ってきたのは朝7時。ターミナルのスタンドでハンバーガーをほおばって、サンチアゴ行きのバスに飛び乗った。
テピックの北西53キロ。サンチアゴ・イスクイントラは周りを山に囲まれた小盆地に開けた町だ。古い教会の周りに広がるコロニアルな町並みがこの辺りではちょっとした観光地になっている。
ターミナルの先、町の中心までは石畳の道になっている。夕方まで町を散策することにしたが、実に味がある町だ。色とりどりの家並みに、人々の声の飛び交う市場。町一番のホテルも年代ものだ。
ここに選手が住んでいるのかと思いフロントで聞いてみたが、タバケロス達はここにはいなかった。彼らは、チームが借り切った屋敷で合宿していることは、後になって知った話だ。
街中のバーは昼間から開いており、そのコンクリートむき出しの殺風景な店では地元の親父たちがビールをあおっている。私もその輪に加わった。話題はもちろん野球だ。地元チーム、タバケロスはもう何年もここに本拠を置き、すっかり町に根付いている。
ほろ酔い加減で店を出る。うん、居心地の言い町だ。この日もチームバスに乗せてもらって試合後にテピックに帰ろうかと思っていたが、ここに泊ることにした。町の端に安宿を見つけ、バーの近所の床屋で髪を切ってもらう。店に入るとオヤジが口を開けていびきをかいていた。
そんなのどかな町にけたたましい音量のスピーカーを鳴らして車が走る。
「ベイス・ボル」
スペイン語で野球はこう発音する。この日の試合の宣伝カーが街中を走り回っている。はるか昔、日本でもドサ回りのサーカスや旅劇団がこうして客を集めていたらしいが、ここナジャリでは今なおこういう風景が生きている。そして町のいたるところには、プレーオフの日程と開始時間が記された手書きの看板が置かれていた。
球場は町外れにある。と言っても端から端まで歩いても30分とかからないような小さな町だ。食堂で出会った老人に勧められて登った丘からは森に囲まれた小さな町が一望でき、足元にこれまた小さなスタジアムが望めた。
その老人と出会った食堂の壁には古いポスターがあった。この町から少し海側に行ったリリゾート地、サンブラスにかつてあったティブロネスという町の看板投手が描かれていた。彼の名はネルシソ・エルビラ。のち海を渡り、ノーヒット・ノーランを成し遂げ、日本野球史にその名を残している。
試合前の練習中の出来事
球場に着いたのは4時半頃。フィールドからは乾いた打球音が聞こえてくる。すでに選手は到着しているようだった。スタジアムの名は「レボルシオン」。「革命」とは随分と勇ましい名だ。取材に来た旨告げると、チームのユニフォームにGパン姿のスタッフがこころよく通してくれた。
フィールドではホームチーム、タバケロスのバッティング練習が行われていた。
フリーバッティングと言っても、バッティングケージなどないマウンドの前からコーチが投げる球を打者が打ち返している。投手役のコーチの前には防球ネットがあるが、打者の後ろにはネットもないし、キャッチャーもいない。
それでもさすがプロ。バッティング投手もボール球を投げないし、バッターも確実にそれを打ち返す。どうしてもミート中心になってしまうせいか、打球は力強さには欠けるが、各バッターは確実に外野に打ち返していた。
その内、ビジターチームのテピックの練習時間となった。こちらのバッティングピッチャーは監督自らが買って出ている。
ダニフェル・ナンデス監督は、42歳になったこの夏まで25年に渡りメキシカンリーグでプレー、2年目にコルドバ・カフェテロスでプレーした以外はメキシコシティ・ディアブロスのセンターで2500本以上のヒットを打った。まさに「ミスター・ディアブロス」と言ってもいいメキシコ球界の至宝である。
来季からは、1軍のメキシコシティの監督に就任することが決まっており、いわばこのリーグでの指揮は監督としての試運転。選手たちも1軍の監督が指揮をとっているのだから、このリーグでアピールして昇格しようと、目の色変えてプレーしている。
このリーグを訪ねてナジャリ州にやって来て以来、日本人を見ることはなかったが、この片田舎のスタジアムになんと日本からの見物客がいた。
50キロ南のビーチリゾート、サンブラスから車を飛ばしてやって来たというその中年の夫婦は、ビジターのディアブロスのファン。その隣のメキシコ人紳士はなんとテピック・ディアブロスのオーナーだった。
日本人は日本の某自動車会社の社員。オーナーはその日系自動車会社の現地ディーラーの社長らしい。そういえば、テピックの球場のネット裏には日本でもおなじみのその会社の広告がデカデカと掲げられていた。
誇り高き老人に出会う
さあ、試合が始まった。昼間の宣伝カーの効果もあってか、2000人ほど入るスタンドは鈴なりの満員だ。レギュラーシーズンではここまでの入りはないものの、この町の野球人気は絶大なものがあり、スタンドはいつも観客で埋まっているという。
この町の人々は本当に野球が大好きだ。試合30分前にはもう席は大方埋まってる。通路には観客が乗ってきた自転車がずらりと並んで歩くことさえままならない。
日本ではとても考えられないことだが、ラテンアメリカの多くの場所では盗難にあわないようにとファンは乗ってきた自転車をスタンドまで持ちこむのだ。
そんな中に、写真入りの額を手にした老人がいた。
その白黒の写真にはユニフォーム姿の選手たちが映っている。背景には今はなき、メキシコシティのセグロソシアル球場が。メキシコ野球が最も輝いていた1940年代、メジャーリーグに対抗すべくリーグを指揮したホルヘ・パスケルの所有した2チームの本拠地、デルタ・パークを、1956年に建て直して造ったメキシコ野球の「聖地」だった。その重厚な鉄筋の二層式スタンドはアメリカ映画に出てくる戦前の大リーグの球場を彷彿とさせて実に味があった。ここであのフリオ・フランコやアレックス・カブレラもプレーしたことがある。
その老人は、その写真のユニフォーム姿の1人を指差した。若き日の自分であるという。
コルドバ・カフェテロス。このチームは今はメキシカンリーグにはない。2006年のシーズン中、財政難から他の町へ球団を売り渡してしまったのだ。今はこのリーグと同じ冬のマイナーリーグ、「リガ・ベラクルス」の1チームとしてかろうじてその名を残している。
老人は、主力選手の一人一人を指差し私に紹介してくれた。
そのメキシコ野球の黄金時代を懐かしむ柔和な表情は、かつて自分もその一員として身を置いたフィールドへの誇りに満ちていた。
<続く>
■石原豊一(いしはら・とよかず)
1970年生まれ、大阪府出身。圧倒的な行動力で、これまでアジア、アメリカ、中南米、ヨーロッパなどを渡り歩く「流離いの野球好き」。国内はもちろんのこと、すでに世界各国200を超える球場で野球を観戦してきた。イスラエル野球リーグが開幕したときも、早速現地へひとっ飛びしたほどの行動派。
※石原豊一氏による過去のレポートはこちら
●イスラエル野球紀行
→http://kozo.boxerblog.com/kozo/cat2140867/index.html
●北信越BCリーグ開幕レポート
→http://kozo.boxerblog.com/kozo/2007/05/post_4ba1.html


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