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2007-12-04

イスラエル野球紀行 第8回

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 2007年6月に中東の地・イスラエルでプロ野球が始まったのをご存じでしょうか? 『野球小僧』では9月10日に発売された10月号の「ワールドベースボールレポート」にて、シーズン中に現地へ赴いた石原豊一氏によるのレポートを紹介しました。
 ただし、ページ構成の都合で掲載は1ページ。そこで、石原氏が誌面に書ききれなかった道中の体験を「イスラエル野球紀行」としてご投稿いただきました。
 今後、当ブログにて週1回のペースで連載していきます。今回はその8回目です。我々日本人には、大変遠く感じる中東・イスラエル。開幕したプロリーグとは、実際どのような雰囲気だったのでしょうか?

イスラエル野球紀行の過去の記事はこちら

        

■フィールド・オブ・ドリームスの世界(8月12日テルアビブ・ライトニング対モディーン・ミラクル(ゲゼルフィールド))~その4

試合開始

 ノックが終わると、いよいよ試合である。
 両チームのメンバー表を開始5分前くらいに交換すると、すぐに場内アナウンスでスタメンの発表。この球場では、始球式もあって、ユニフォーム姿の小さな子供が力いっぱいキャッチャーにボールを投げていた。
 お約束の国家斉唱は、球場アナウンサーのアカペラ。ここでは球場アナウンサーは歌も上手でなければならない。
「プレイボール!」
 順位の決まった後の消化試合からか、雰囲気はどことなくのんびりしている。この球場は村はずれの高台の土手の上にあるため、その土手に面した三塁側に客席はない。
 客席はネット裏から一塁ベース側に3列ほど並べられているのと、その後方に2つ、木でできた5段ほどの小さなスタンドがしつらえているだけだ。そして、土手に面した三塁側には両軍のベンチが仲良く並んでいる。

Gameゲゼルフィールドの観客席。後方に5段ある木製のスタンドが見える

 初回、いきなりモディーン打線がテルアビブの先発、イスラエル人ピッチャーのローゼンに襲いかかる。彼は外国籍の選手が席巻する今年のイスラエル・リーグの中、イスラエル人選手としてコーチ兼任ながら、ローテーションを守り、シーズン終了後には最優秀イスラエル選手として表彰されている。
 先頭のウォーカーがショートへの内野安打で出塁すると、ファーボールとボテボテのサードゴロで、たちまちのうちにモディーンは1アウト二・三塁という先制のチャンスを迎えた。
 ここでバッターはエラディオ・ロドリゲス。ブルーソックスのリーズ、レイムンドと三冠王争いを繰り広げているスラッガーだ。ドミニカの広島アカデミーから3Aまで上り詰めた彼は、あの野茂英雄ともバッテリーを組んだこともある。先日のヤルコンでのナイターでは、センターフェンスの向こうの木に当たったかのように見えた「疑惑のホームラン」を打って、ホームラントップに並んでいる。
 テルアビブのベンチはこの強打者との勝負は避け、次のモコ・モナロアとの勝負を選んだ。
   

期待のルーキー

 モコはオーストラリアからやってきた高卒のルーキーだ。まだ、あどけなさの残るこの少年は、宿舎では英語を話す白人達の輪の中に混じっている。いつも無口でその輪のすみっちょにいるのは、年齢のせいと、彼がカラード(有色人種)であることも関係しているのだろう。
 浅黒い彼の容貌は、一見ラティーノ(ラテンアメリカ人)に見える。しかし、英語圏の国から来た彼にとって、ドミニカン達はまったくの異邦人に過ぎず、いつも英語圏のアメリカ、カナダ、オーストラリア人の集まりに入ってゆくのだが、大卒以上の者が多い彼らの中に溶け込んでいるわけでもなさそうだ。名前から察するに、彼はおそらく太平洋ポリネシア出身だと思うが、マイノリティという出自が、このルーキーを無口にしているのではないかとも思う。夜、賭けトランプ(こういうときはラティーノも混じってくる)に興じる大人に付き合いきれないときは、同年代のイスラエル人、ブルーソックスのレイクマン達と共同のテレビ部屋で映画を見ている。
 そんなモコだが、フィールドではまるで別人のように存在感がある。この打席でもきっちりレフトに犠牲フライを打って貴重な先制点をたたき出した。第2打席もレフト前にタイムリーヒットを放ち、勝利打点を挙げている。1人故郷を離れた寂しさを野球にぶつけているようだった。
 ちなみに、モコのシーズン終了後の成績は打率.314でホームラン4本。将来が楽しみだ。
    

Fishテルアビブ・ライトニングの4番打者、ネイト・フィッシュ

モディーンがリード

 結局モディーンはこのチャンスに1点しか挙げられず、2回裏に元広島のペレス・ブリトーが選んだフォアボールを足がかりにテルアビブの反撃を許してしまう。しかし、次の3回表の攻撃で1アウトからの2、3番が連続ヒットの後、エラディオがまたもや歩かされ、さっき書いたようにモコがタイムリー。下位打線も続いてこの回3点を挙げた。
 その裏のテルアビブの攻撃は、2死から4番ネイト・フィッシュがライト前にうまく運んで出塁。彼はアメリカから来たユダヤ人で、ショート、サードのほかキャッチャーまでこなすマルチプレーヤーだ。全米ユダヤ人代表チームにも選出されており、普段はニューヨークでDJの会社を経営しているらしい。なるほど、長髪をなびかせるイケメンぶりは、野球選手にしておくにはもったいないような気もする。
 ここで1点くらい返しておきたかったが、続くブリトーはあっさり凡退。淡白な攻撃に、監督の怒りは球審に向けられた。微妙な判定にベンチからヤジが飛ぶと、球審もそれに応じて、ベンチに向かってヤジに答える。草野球のような風景だが、観客席はそのやりとりにどっと湧いた。

照明による原初的な風景のうちにゲームが終了

 その後、両チーム1点ずつを加えて、試合は6回に入る。本場でおなじみの「Take me out to the ball game」は、5回表終了後に歌い終えていた。
 このころになると、もう随分日も暮れてきて、フィールド全体が暗くなってくる。だが、まだ照明はつかなかった。
 そんな中で、イニング間に大リーグ速報が放送されると、ここはアメリカではないか? という錯覚を覚えてしまう。6回裏になってようやくともった決して明るくはない照明は、さらにフィールドを幻想的に浮き出させ、フェンスの向こうのとうもろこし畑の向こうから本当にシューレス・ジョーが出てくるのではないかと想像をかきたててしまう。
 まさにフィールド・オブ・ドリームスの世界。この原初的な風景を1度知ってしまったら、たとえ野球を知らないイスラエルのファンであっても、ついついまたここに足を運んでしまうだろう。

Gezel回が進むにつれ、暗くなっていくフィールド。照明がつくと、原初的な風景がさらに強まっていく

 そんな情景の中、テルアビブの攻撃で8番ラングボードの大きな飛球がセンターに上がった。モディーンのセンター、ガルが懸命にそのフライを追う。右中間フェンス前の坂を駆け上って、そのボールを手を伸ばしてつかみとると、ガルはその坂に倒れこんだ。一瞬の静けさの後、彼がボールの収まったグラブを高々と持ち上げると、この日一番の歓声が場内から上がった。
 試合の方は、このままモディーンが逃げ切り、テルアビブを降した。
 試合後、これから向かうテルアビブの方角を見下ろすと、とうもろこし畑の向こうのスカイスクレイパーに夕日が半分沈んでいた。

<次週へ続く>

      

■石原豊一(いしはら・とよかず)
1970年生まれ、大阪府出身。圧倒的な行動力で、これまでアジア、アメリカ、中南米、ヨーロッパなどを渡り歩く「流離いの野球好き」。すでに世界各国200を超える球場で野球を観戦してきた。イスラエル野球リーグが開幕すると聞いて、今回も早速現地へひとっ飛び。異国の野球熱を思い切り体感してきた。

※石原豊一氏による北信越BCリーグ開幕時のレポートはコチラ
http://kozo.boxerblog.com/kozo/2007/05/post_4ba1.html

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